デザイナー 海老塚美邑が語る 協会という立場から目指すもの vol.4
仲間
2020年7月30日
 一般社団法人日本フライングディスク協会では、HALF TIMEでの人材募集を2019年に開始しました。中央競技団体(NF)の活動をより深く知っていただけるよう、協会の立場で活動する個人にフォーカスし、意識している課題や取り組みについて、広報担当者がインタビュー形式で掲載します。

今回は、協会のデザイナーを務める海老塚美邑さんにお話をうかがいました。

 

 

 

取り組んでいるテーマについて

 

――具体的な業務について教えてください。

 

 デザイナーとして、メディアなどの制作を主に行っています。また、それらの管理や納品も担当しています。学生時代には主に国内大会のデザイン業務を経験し、現在は国際大会や協会外に向けた資料のデザインなど、規模の大きな仕事を任せていただいています。


 

――海老塚さんが協会という立場から取り組んでいるテーマは何ですか?

 

 デザインを通してフライングディスクに関わる方々の活動をより豊かにする、ということをずっとテーマにして働いています。選手にとって、大会に参加することの一番大きな目的は「試合をすること」ですが、自分のデザインが参加される方の印象に残ることで、その大会での場面や体験をより深く記憶してもらうきっかけになればと思っています。


 

――そのようなテーマを持つようになったきっかけは何ですか?

 

 私は大学の頃にアルティメットを始め、今でも様々なフライングディスク競技に関わり続けている程、フライングディスクの魅力に取り憑かれています。私が大学生の頃、中学から大学までずっと勉強していた美術というツールを使ってこの競技のために何かできないかと、協会の方に相談してみたことが、現在デザイナーとして関わるようになったきっかけです。

 

 最初に任せていただいた仕事は、大学新入生にフライングディスク競技全般を体験してもらうイベントのデザインでした。イベントの主な目的は競技をすることですが、新入生にフライングディスクをもっと好きになってもらうために、可愛いネームシールや集合写真を一緒に撮る横断幕など、少しでも深く記憶してもらえるきっかけを作りたいという想いで制作に臨んでいました。大会やイベントでの体験をふと思い出した時に、「こんなイベントに行ってフライングディスクに出会ったんだな」と思い返してもらえるような瞬間を作りたくて、当時から一貫してこのテーマを意識しています。

 

 

 

これまでの取り組みと、これから

 

――デザインを通して活動をより豊かにするために、どのようなことに取り組んでいますか?

 

 私が協会にデザイナーとして関わり始めた当初は、各全日本選手権のウェブバナー、横断幕、参加賞などのデザインを年間を通して担当していたのですが、どの大会もひとつひとつが特別な思い出になるよう、想いを込めて制作していました。特に全日本大学選手権は、1人の大学生にとって最大でも4回しか経験できない大会なので、「大学」そのものをテーマとし、「日本一の大学のエンブレム」をイメージした毎年異なるロゴを制作しました。加えて、2016年、2017年は、全国の学生が日本一を目指し、地区予選、本戦、決勝の舞台へと旅をしていくというコンセプトのもと、旅を想像させるデザインを制作しました。「旅」が持つ”期間限定””非日常”というイメージは、ふとした瞬間にその時の景色や時間をを思い返すという点で、学生選手権にマッチしたイメージだと思っています。大会のロゴは必ずしも毎年変える必要はないのですが、大会ごとに生まれるそれぞれのドラマを大人になってからも思い出してほしいという想いを込めていました。

 

 他にも大きな取り組みとして、日本代表ユニフォームなどの制作を手掛けることもあります。このお話をいただいた時は、「選手たちがユニフォームに袖を通した時に、テンションが上がる・スイッチが入る」デザインを目指すと同時に、日本代表選手を見た他の選手たちが「あのユニフォームを着たい」と感じ、日本代表を目指すモチベーションが生まれるデザインにもしたいと考えていました。

 

 選手のモチベーションを生み出すことは、「この競技をする人々の活動を豊かにする」というテーマに直結すると考えています。自分自身、競技をしていた時にハイライト動画や大会の写真に自分の姿が写っていて嬉しかったことは今でも思い出します。競技に取り組むことで感じた前向きな感情を、メディアやデザインと一緒に記憶することで、競技に関わる人生をより豊かにしてほしいと思っています。私の想いが実際に選手たちにどれくらい伝わっているかを知ることは難しいのですが、制作時はこのテーマを忘れずに取り組むようにしています。


 

――それぞれの大会のデザインは、どのように形にしていくのでしょうか?

 

 大会の持つ特徴からデザインコンセプトを作り、それを基に制作しています。大会は、会場に行って競技をするという観点ではどれも同じなようですが、日本一を決める大会、学生だけの大会、ビーチで行われる大会など、大会ごとの特徴も持っています。その特徴を洗い出し、デザインコンセプトを作り、グラフィックに起こしていきます。

 

 普段から大会の特徴や、コンセプトに基づいた形のイメージを頭の中に漂わせて、ある程度固まったら実際に手を動かしていきます。なかなか納得のいくものができず試行錯誤する時もあれば、コンセプトに合ったものがすぐに描ける時もあります。去年6月に和歌山県で行われたWFDF2019アジア・オセアニアビーチアルティメット選手権大会のロゴをデザインした時は、コンセプトを考え、形のイメージは持たずに手を動かして、すんなりと「これだ」というものが見つかりました。


 

――大会のイメージの掴み方には、海老塚さんがプレーヤーとして出場していた経験も影響しているのでしょうか?

 

 自分が選手として実際に競技に取り組んでいたので、大会の空気感は肌で感じていました。チーム同士の関係性や大会に臨むチームの意気込みを身近に感じていたので、イメージを掴みやすかったのかも知れません。

 

 ですが、各全日本選手権のデザイン業務を引き継いでくれている後輩たちは、フライングディスク競技に親しんではいますが、大会にはカメラマンなどのスタッフとして参加することがほとんどです。大会に出場しなくても、スタッフという立場から感じたことや、ディスクへの想いをもとにデザインをしてくれているので、大会の出場経験が全てではないと思っています。

 


――これまで手掛けたデザインに対する手応えを感じる瞬間はありますか?

 

 過去のデザインを振り返って、参加者の方から「あのデザイン好きだったよ」と言ってもらえる時は手応えを感じ、とても嬉しいです。大会ごとに作るパンフレットでは、前回大会の写真のコラージュを入れているのですが、様々なチームの選手を選ぶように心掛けながらも、誰もが覚えているであろう決定的なシーンや少し面白い要素のある写真を選んだりもしていて、会場やSNSで選手たちの話題になっていたり、そういった工夫に気付いた選手から声をかけてもらったりすることもあります。

 また、私がデザイン業務を始めたての頃に制作した全日本大学選手権の参加賞を今でも使ってくれている人や、イベントで制作したラバーバンドを集めてくれている人を見かけることもあります。参加者の手元に残るものは特に気持ちを込めて作っているので、大切に持ってくれているのを見ると、とても嬉しい気持ちになります。過去に大会記念ディスクを作ったこともあったのですが、そのディスクがすぐに売り切れたと聞いた時も、自分の仕事に対して手応えを感じることができました。

 

 

――デザインをより良いものにするために工夫してきたことはありますか?

 

 デザイン業務にも効率化できる部分があるので、制作物の雛形を作ったり、新しいツールを学んでより簡単にできる方法を探したりといった工夫もしています。

 

 また、大会ごとの制作物のデザインも、毎年改善しています。例えば横断幕では、全体のデザインを優先して大会名が小さくなっているとの指摘もありました。私としては、後輩たちのデザインを尊重したい気持ちが強くジレンマを抱えていたのですが、一度自分が制作を担当した大会で、思い切って大会名を強調するデザインにしてみたところ、写真写りが良くなることに気付いたんです。大会のコンセプトをグラフィックで表現することも大切ですが、大会名を伝えることもデザインの大切な役目であると再認識し、そのバランスを取ることでより良いデザインを目指しています。

 

 

 

これから目指すところ

 

――現状の課題としては、どのようなものを感じていますか?

 

 協会や競技の課題としては普及であると私は感じています。私がデザインをする上でテーマにしていることがもうひとつあり、それは「フライングディスクに関わっていない方々にも、デザインをきっかけにこの競技に興味を持ってもらいたい」というものです。2020年6月に協会が実施したクラウドファンディングのデザインを担当したのですが、フライングディスクを知らない方もこのデザインが興味を持つきっかけになるよう、親しみやすいデザインにしました。

 

 普及という課題に対して私がデザインでできることは、フライングディスク競技を始めてもらうまでの道のりをよりカジュアルなものにしていくことだと思っています。現在競技に関わっている方々の満足度向上はとても大事なことですが、私のデザインが現在の関係者だけでなく、フライングディスクとの関わりがない人たちにも届き、見て使っていただけるようになれば嬉しいなと思っています。


 

――協会がデザインに力を入れている理由は何ですか?

 

 デザインという視覚的なツールは、人の感情を動かすことのできるツールのひとつです。スポーツ自体がそもそも人の感情を動かすツールだと考えると、そこにデザインの力を重ねることでより高い効果を得ることができると考えています。「スポーツは勝敗が全て」という考え方もありますが、スポーツによる満足度を向上させるためには、勝敗のみに依存しない体験価値も必要となります。大会やイベントで生まれた感情をより深く記憶するきっかけを作り、スポーツの体験価値を向上させるために、デザインの力は必要だと感じています。

 

 

――これからは、デザインを通してどのような業務に関わっていきたいですか?

 

 最近は、国際大会などの協会主催ではないイベントの業務や、クラウドファンディングのような社会にアプローチする仕事にも携わっています。私はフリーランスという立場で、協会外の方とも関わらせていただいているので、この経験を活かし、フライングディスク以外のスポーツはもちろん、スポーツ以外の領域にも挑戦していきたいと思っています。
 

 

――海老塚さんが目指す理想について教えてください。

 

 最近では美術大学に通う後輩たちに関わってもらう機会が増えてきました。今の経験が彼ら彼女らの将来に役立つものになってほしいと思っていて、卒業後にフライングディスクから離れてしまったとしても、何らかの形で今の経験を活かしていってくれたらと思います。

 

 私も美術大学に通っていたのですが、美大生が自身の作品を発表する場としては個展やコンペが一般的でした。学生時代に日本全国という規模の仕事をいただけた経験は、今の仕事をする上でも大きな基盤となっていますし、今関わってくれている後輩たちにも、私がそうしてもらったように貴重な経験をさせてあげたいと思っています。もちろん、今後も後輩たちがどこかでフライングディスクに関わり続けてくれたら、もっと嬉しいですね。選手に限らず、スタッフとして、観客として、フライングディスクを好きという感情は持ち続けてほしいです。

 

 私は選手として競技に関わっていた時、「強い選手でなければ意味がない」というプレッシャーを感じていたのですが、デザインやスタッフという形で関わるようになってからは、考え方が変わりました。選手ではない関わり方をしている方々も、「このスポーツが好き」という同じ気持ちを持って競技に携わっていることに違いはありません。どの立場からも、フラットでお互いに前向きなに感情を作りながらこのスポーツに関われるように、デザイナーという立場から貢献していきたいと思っています。

 

 

 

 

海老塚美邑 / Miyu Ebizuka

一般社団法人日本フライングディスク協会 デザイナー。

沖縄県出身。女子美術大学在学中にインターンとしてデザイン業務に従事。
2017年卒業後、スポーツメーカー(DMR.inc(旧ディアドラジャパン))に新卒入社。
スポーツアパレルのデザイン業務を経験した
のち、フリーランスに転向し、協会のデザイン業務を再開。WFDF2019アジア・オセアニアビーチアルティメット選手権大会、日本代表チームユニフォーム、Social Flying Disc Project 2020などのデザインを手掛ける。第25回(2015)全日本大学新人アルティメット選手権大会優勝。第44回(2019)全日本フライングディスク個人総合選手権大会ウィメン部門総合優勝。

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